千年を超えるきらめき
古都、平城京の歴史を見守ってきた正倉院に、「鏨(たがね)」という彫金工具で彫刻された数々の宝物が眠っています。
「鏨(たがね)彫り」。現在では広く「和彫り」と呼ばれるその彫金技法は、千年以上も昔から寺社仏閣や芸術品を彩り、現代まで脈々と受け継がれてきました。
硬い金属に刻み込まれるにもかかわらず、彫り出される線は単純な直線ばかりではなく、時にゆらめき、時にうねり、彫師の息遣いを感じるほどに繊細です。はじけるような輝きと陰影は平板な金属に奥行きを作り、まるで生きているかのように豊かな表情を浮かべます。
いま「和風の結婚指輪」を想像するとき、すぐに手彫りを思い浮かべることは少ないかもしれません。
悠久の時を超え、いつまでも輝き続ける鏨彫りには、私達が忘れつつある秘法が隠されています。